不動産投資の全額融資(フルローン)とは?
不動産投資におけるフルローンとは、物件価格の全額を、金融機関からの融資でまかなうことを指します。
フルローンを利用すると、自己資金を手元に残したまま物件が購入できたり、レバレッジをかけた効率的な投資を行ったりすることが可能です。
では、フルローンは、全ての投資物件に対して効率的な融資システムなのでしようか。
この回答を得る為に、例をあげて分析したいと思います。
具体的な購入物件の一例
購入物件を「例1」、融資条件を「例2」としました。
【例1:購入物件】
・物件価格:9,000万円
・表面利回:7%
・購入費用:600万円(登記費・手数料等)
※投資総額:9,600万円
【例2・融資条件】
・金利:1.2%
・期間:35年
・融資金額:8,100万円(9,000万円×90%=融資額8,100万円)
・必要自己資金:1,500万円(9,000万円×10%+600万円)
そして、上の「例1」を、「例2」の融資条件で購入した場合、どれほどの家賃収入、いわゆるキャッシュフローが得られるかを、以下の通り計算してみました。
キャッシュフローはNo6の通り、116万円になりますが、上の計算とは違った見方をする為に、下のように116万円を求める図を段階的に作成してみました。
はじめに、「投資家」と「銀行側」が、それぞれお金を出し合って収益不動産に投資をする以上、それぞれに家賃収入が分配されますが、その分配の対象金額は所得となり、「CFツリー」のNo4「NOI:475万円」になります。
そして・・
投資家が投下する自己資金は 1,500万円
銀行から受ける融資額は 8,100万円
これを、「投資家の取り分」「銀行の取り分」を、投資総額9,600万円を基に按分すると、
投資家 → 1,500万円÷9,600万円(投資総額)=15.6%
銀行側 → 8,100万円÷9,600万円(投資総額)=84.4%
となり、「投資家の取り分」「銀行の取り分」は下の図のようになります。
以上の図から、銀行の取り分が大幅に上回っていることが分かりますが、銀行は84%にあたる400万円の全てを求めません。
「金利1.2%」「期間35年」「融資額8,100万円」で毎年の借入返済額を計算すると「359万円」になります。
これは、金利が各年へ分配されることで、借入金の年間返済額が抑えられることを意図し、正確な図にすると下記の通りとなります。
そして、青の背景である差額41万円を、イールドギャップ(YG)と呼びますが、このYGは「投資家」の属性で得られた低金利と長期期間によるボーナスポイントの様なもので、「投資家」の取り分となります。
結果、自己資金15.6%の出資に対する配分74万円と、YGの41万円を合計した、116万円が、税引前CFとして得られことになりました。
ですから、もし、融資割合100%の場合はYGのみしか「投資家」は得られず、74万円を得ることはできませんので、図にすると下記の通りとなります。
まとめ
上の図から分かるように、フルローンは金融機関側にメリットが多いシステムです。
投資家にとって、自己資金を温存できるメリットはありますが、数か月空室があれば、たちまちにキャッシュアウトに陥る為、高利回な収益不動産でなければフルローンのメリットは得られません。
つまり、低利回の収益不動産では、フルローンはデメリットになる可能性が極めて高いシステムでもあります。
ここで、「フルローンが金融機関にとってメリットが多いのであれば、なぜ多くの金融機関がフルローンを取り組まないのか?」
という疑問が頭をよぎりますが、個人情報改ざん等で不正融資が頻繁に行われた結果、金融庁から当面の間、不動産投資への積極的な融資は禁止、というお達しが発令された影響だと考えています。
それに抗った金融機関は、フルローンを今でも行っている、というところでしょうか。
最後に、「フルローン」とは言っても、物件購入費用以外の諸経費(手付金、投機費用、仲介手数料、不動産取得税など)は融資範囲に入りません。
まったく手出し資金無で物件が買えるわけではありませんので、これらの点を考慮に入れて、フルローンを利用するかどうかを検討することが重要です。